full moon in the blue heaven
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レンガ通りを下って
バルセロナでは知り合いの知り合い、の家に泊めてもらった。彼女の名前はK子さん。
K子さんは大学を出てからしばらく民間企業につとめていて、それから教員試験を受けて先生になって、だけど子どもが生まれちゃったから育児休業をとることにして、その間に旦那さんの海外研修が決まったからくっついてスペインくんだりまでやってきた、とそういう人だった。背の高い美人で、さばさばしてて、初対面で十も年下の私に丁寧に親切にしてくれて、慣れない土地での慣れない生活をさくさくとこなしているように見えた。
そこで暮らす事情が事情だからだろうけど、K子さんはそこに「住んでいる人」というより、同じ「旅人」のように見えた。これはその時思ったことではなくて、今考えて書いていることだからこの表現が正しいのか分からないけど。
K子さんは、コーヒーカップの縁にちょこんと腰掛けながら、中から立ちのぼる香りの正体を確かめようとしているみたいだった。カップの中にはもちろんバルセロナが酸いも甘いも丸ごと入っているのだけど、それだけではなくて、そこには例えば仕事だったり結婚生活だったり、子どもだったり人生、が全部放り込まれていた。そんな風に見えた。
ちなみに私はといえば、ソーサーの縁を、つまりコーヒーカップの外側をぐるぐる回っていた。白い壁しか見えないけれど、どこからか香りだけはするのだ。

私はその家で小さな書斎の小さなベッドを一つあてがわれて、家の鍵を渡された。私がどういう旅行をする人か最初分からなかったからだろうけど、自由に出入りして気を使わず生活してね、と告げられた。
私も最初はその土地で自分がどういう旅行をするのか全く見えずにいたけれど、結果としてはバルセロナの大部分を、リビングで一歳の坊やの遊び相手になったり、K子さんと三人で赤茶けたオレンジ色の街並みを散歩したり、カフェでクリームたっぷりのチョコレートを味わったりして過ごすことになった。
もちろん、サグラダ・ファミリアを見たりグエル公園に行く暇がなかったり聖歌隊に聞きほれたり財布をすられたりしたのも、だいぶスリリングで面白い出来事だったし大分時間を使ったはずなのだけど、それにしても心の大部分は、ということだ。

K子さんとはいろんな話をした。今でも思い出せるような話を、たくさんした。彼女も昔はこんな旅行をしていたらしい。「あなたみたいにふわふわしてたのよ」とは言われなかったけれど、なんとなくそういう風に聞こえた。だから私は、K子さんはどうしてそんなにふわふわしたところから今の落ち着いた生活、具体的に言えばきちんと家があって結婚してて子どもがいるような生活、に降りてきたんだろう、と不思議に思った。
「どうして結婚したんですか?」と聞くと、「あんがい早かったのよ、二十六くらい」と言われた。「結婚してくださいって言ってくれる人がいるうちにしちゃわないと、この先一生、誰とも『一緒に暮らす』ってことができなくなる気がしたの」。
だけど、今の私だったらきっと、もっと違うことを不思議に思う。
「どうしてあなたは、今でもそんな風にふわふわしていられるんですか?」って。
だってK子さんは、バルセロナの日付を回ってまで盛り上がるレストランややたらスリの多い地下鉄、そして赤ん坊に優しくて甘すぎるお国柄なんかと丸ごと一緒くたにして、自分の生活、そして人生をコーヒーカップに注ぎ込んでいるように見えたのだ。



***



あ、すごい大変なこと忘れてた、
新採研修のレポートかかなきゃ、宿題だった、
うあー
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コメント
落ち着いた生活、具体的に言えばきちんと家があって結婚してて子どもがいるような生活、に降りてきたんだろう、と不思議に思った。
で、終わっていたら、そんなの何の不思議もないままだったけど、「どうしてあなたは、今でもそんな風にふわふわしていられるんですか?」に変わって、K子さんに興味を持てた。
さしずめ、自分はコーヒーカップの外側をぐるぐる回っていたところから、白い壁をよじのぼってる最中でしょうか。
でもいくつになってもコーヒーカップの内側になんか行けない気もするし、今だってカップの内側でグルグルかきまわされてるような気もする。
| チンパン | 2011/08/21 10:28 PM |
あ、チンパンさん。

たぶん、疑問の形がかわったから、書こうと思ったり書きたくなったりしたんだとおもいます。あとは、天気が悪くて寒かったから、バルセロナのひざしとどろどろのチョコレートが恋しくなった。
あなたはのぼってるんじゃないかなあ。ちょっとだけ、高いところにいる気がする。
でもなんとなく、上までたどり着いても、飛び降りたり飛び込んだりしそうだなって思う。ちがうかな。
| mippo | 2011/08/22 7:26 PM |
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